ここまでの内容を、数値計算、量子力学、場の理論、相対性理論、保存則(ネーターの定理)、制御理論へと広げる。各節は概観であり、詳細は個別の分野で学ぶ。
適切な座標関数 $\{l_i(x)\}_{i=1}^n$ の組を選び、汎関数の引数を
と展開して、汎関数極値問題を通常の関数の極値問題に変換する手法をRitz法と呼ぶ。「良い」試行関数の形式は、計算が容易であり、かつ十分に速く、十分に高い精度で固有値の近似値を求められるものである。
多変数の条件付き極値問題では、$n$ 個のパラメータ $(c_1, \dots, c_n)$ に対する必要条件
が得られる。これは $c_i$ に関する代数方程式系であり、非零解を持つための条件から固有値の近似値が求まる。
固有値問題において、Ritz法で得られた近似固有値は真の固有値の上限を与える(変分原理の極小性による)。試行関数の項数を増やすにつれて、最小固有値の近似精度は単調に改善される。しかし、高次の固有値を精度よく求めるためには、低次の固有関数との直交条件を付加した新しい条件付き極値問題を解く必要がある。一般に $k$ 番目の固有値を求める場合は、最初の $k-1$ 個の固有関数との直交条件
を付加する。
Euler有限差分法では、区間 $[a, b]$ を $n+1$ 等分し、導関数を差分
で表す。汎関数を差分形式
で近似し、$\frac{\partial \Phi}{\partial y_i} = 0$ を解く。有限要素法は多項式補間を用いて非節点上の値を求めるため、Euler差分法よりも収束が速い。平面の場合は通常三角形メッシュに分割し、より高次元の空間では単体(simplex)に分割する。
量子力学におけるプロパゲーター(伝播関数)は変分法・汎関数積分の観点から次のように表される。
ここで $[\mathcal{D}q]$ は全ての可能な経路にわたる汎関数積分(経路積分)を表す。定義として、積分変数の定義区間を $n+1$ 等分し、$n$ 個の変数 $y_1 = f(x_1), \dots, y_n = f(x_n)$ についての通常の多重積分に変換し、最後に $n \to \infty$ の極限をとる。古典極限 $\hbar \to 0$ では、停留位相近似により作用量 $S$ が極値をとる経路(古典的軌道)が支配的になり、ハミルトンの原理が自然に回復される。
Schrödinger場のLagrange密度は
である。$\psi$ と $\psi^*$ を独立な変数とみなして変分をとると、連続系のLagrange方程式
からSchrödinger方程式
が得られる。また $\psi^*$ について変分をとると共役方程式が得られる。このように、量子力学の基本方程式も変分原理から導出できる。
3次元空間の連続系の場 $\psi_i = \psi_i(x^\mu)$($x^\mu = (t, x, y, z)$)に対して、作用量は
と書ける。Hamiltonの原理 $\delta S = 0$ から、Euler-Lagrange方程式
が得られる。古典場の運動方程式において、$(t, x, y, z)$ はすべて同等なパラメータとして扱われる。これは時空の対称性を明示的に扱える定式化となっており、相対論的場の理論への自然な拡張を与える。
幾何光学のLagrange関数 $L = n(\vec{r})|\dot{\vec{r}}|$ に対して、一般化速度に関するヘッセ行列は
となる。$\sum_i \frac{\partial^2 L}{\partial\dot{r}_i \partial\dot{r}_j}\dot{r}_i = 0$ であるため行列の各行は線形従属であり、
となる。これは特異Lagrange系(singular Lagrangian system)であり、Legendre変換の条件が成立しないためLagrange力学からHamilton力学の枠組みへの移行が困難になる。この特異性はパラメータ不変性(内部対称性)に起因している。
Yang-Millsゲージ場においても同様の問題が生じる。ゲージ不変性という連続的な内部対称性によって特異Lagrange系となり、正準量子化を成功させるためにはゲージ固定(gauge fixing)を行う必要がある。ゲージ固定条件を付加することで自由度が確定し、Legendre変換が可能になる。
Maupertuisの原理によって導かれた測地線方程式
は、一般相対性理論において重力場中の粒子の運動方程式(測地線方程式)と完全に同じ形式をとる。ここで計量テンソル $g_{\mu\nu}$ が重力場を記述し、Christoffel記号 $\Gamma^\sigma_{\mu\nu}$ はその微分から構成される。すなわち、リーマン幾何学(相対性理論では計量が符号付きのローレンツ計量になる)において自由粒子の軌道は測地線であり、これは弧長汎関数
の停留値条件から導かれる。
一般相対性理論においても変分原理が成立する。時空の計量 $g_{\mu\nu}$ を場の変数とすると、Einstein方程式は Einstein-Hilbert 作用量
の停留値条件 $\delta S_{EH} = 0$ から導出される。ここで $R$ はRicciスカラー曲率、$g = \det(g_{\mu\nu})$ である。物質場の作用量を加えた全作用量の変分から、エネルギー運動量テンソルを含む完全なEinstein方程式が得られる。このように、変分原理は古典力学から場の理論・重力理論に至るまで統一的な記述を与える。
Noetherの定理は、作用量の連続的対称性と保存則の間の対応を与える基本定理である。すなわち、作用量 $S = \int L\, dt$ が連続的な変換群の下で不変であるとき、対応する保存量(Noether電荷)が存在する。
力学の場合に、導出を示す。無限小変換 $q_\alpha \to q_\alpha + \varepsilon\,\delta q_\alpha$ に対してラグランジアンの変化が全微分になる、すなわち $\dfrac{dL}{d\varepsilon} = \dfrac{dK}{dt}$ ($K$ は $q, t$ の関数)であるとする。運動方程式を満たす経路に沿って
となる(最後の等号でオイラー・ラグランジュ方程式を用いた)。したがって、
は時間によらない保存量である。$K = 0$($L$ そのものが不変)の場合が多い。
時間並進不変性($L$ が $t$ を陽に含まない)に対応する保存量はエネルギー(ハミルトニアン)$H = p_\alpha\dot{q}_\alpha - L$ であり、これは基礎節で導いた第一積分 $\dot{q}\frac{\partial L}{\partial\dot{q}} - L = \text{const}$ に対応する。
空間並進不変性に対応する保存量は運動量 $p_\alpha = \frac{\partial L}{\partial\dot{q}_\alpha}$ であり、これは $F = F(x, f')$ の場合のオイラー方程式の第一積分 $\frac{\partial F}{\partial f'} = \text{const}$ に対応する。
回転不変性に対応する保存量は角運動量であり、中心力場の軌道問題(応用のページの例5)で現れた循環座標に対応する保存量と一致する。
複素場の大域的な位相変換 $\psi \to e^{i\alpha}\psi$ に対する不変性に対応する保存量は電荷(粒子数)であり、電荷保存則を与える。なお、位相 $\alpha$ が時空の点ごとに異なる局所的なゲージ変換については、ネーターの第二定理により、保存則ではなく場の方程式の間の恒等式(拘束)が得られる。
連続系(場の理論)においては、Noetherの定理は局所的な保存則(連続の方程式)を与える。作用量
が無限小変換 $\delta\psi_i = \varepsilon f_i(\psi, x)$、$\delta x^\mu = \varepsilon F^\mu(x)$ の下で不変であるとき、Noether電流
は保存則 $\partial_\mu J^\mu = 0$ を満たす。
変分法は工学における最適制御理論とも深い関係を持つ。状態変数 $x(t)$ と制御変数 $u(t)$ が与えられたとき、目的汎関数
を状態方程式 $\dot{x} = f(t, x, u)$ の拘束条件の下で最小化する問題を最適制御問題という。Lagrange乗数関数 $\lambda(t)$(共状態変数)を導入すると、これは汎関数の条件付き極値問題と同型の構造を持つ。
Hamiltonianを
と定義すると、最適性の必要条件(Pontryaginの最小原理)は
となる(最後の式は、制御 $u$ に制約がなく最適点が内点にある場合の条件。一般には $H$ を $u$ について最小にする)。これはオイラー・ラグランジュ方程式のHamilton形式であり、変分法の自然な拡張として解釈できる。
基礎節で述べた定理(正値対称線形演算子に対する方程式と汎関数の極小の同値性)をより一般的な関数解析の文脈で述べると次のようになる。Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の正値対称(エルミート)演算子 $\hat{A}: \mathcal{H} \to \mathcal{H}$ に対して、方程式
の解は汎関数
の極小元と一致する。この観点から、変分法は関数解析における最良近似問題と本質的に同じ構造を持つ。
変分問題の解が古典的な意味での微分可能性を持たない場合でも、弱形式(積分形式)の方程式
を満たす「弱解」として意味を持つ。この枠組みはSobolev空間上の変分問題として定式化され、有限要素法の数学的基礎をなす。すべての微分方程式が対応するLagrangianを持つわけではないというHelmholtzの指摘も、この文脈で精密化される(Helmholtz条件)。
平面内の質点のラグランジアン $L = \dfrac{m}{2}(\dot{x}^2 + \dot{y}^2) - V\!\left(\sqrt{x^2+y^2}\right)$ について、回転 $\delta x = -y,\ \delta y = x$ に対するネーター電荷を求めよ。
運動エネルギーは回転で不変で、$V$ は $r = \sqrt{x^2+y^2}$ だけの関数だから、無限小回転で $L$ は変化しない($K = 0$)。ネーター電荷は
これは角運動量の $z$ 成分で、中心力のもとで保存される。
固有値問題 $-y'' = \lambda y$、$y(0) = y(1) = 0$ の最小固有値を、試行関数 $y = x(1-x)$ を用いた Ritz 法で近似せよ。厳密値 $\pi^2$ と比べて何が言えるか。
固有値問題は、拘束 $\displaystyle\int_0^1 y^2\,dx = 1$ のもとで汎関数 $I[y] = \displaystyle\int_0^1 y'^2\,dx$ を極小にする問題と同値である。試行関数では、
だから、近似値は $\lambda \approx \dfrac{1/3}{1/30} = 10$。厳密値 $\pi^2 \approx 9.8696$ より少し大きく、Ritz 法の近似値が真の最小固有値の上限になること、誤差が約 $1.3\%$ と小さいことが確かめられる。
状態方程式 $\dot{x} = u$、$x(0) = 0$、$x(T) = 1$ のもとで、$J = \displaystyle\int_0^T \dfrac{1}{2}u^2\,dt$ を最小にする制御 $u(t)$ を、ポントリャーギンの条件から求めよ。
$H = \dfrac{1}{2}u^2 + \lambda u$。条件は
$\dot{\lambda} = 0$ より $\lambda$ は定数で、$u = -\lambda$ も定数。$x(T) = uT = 1$ から $u = 1/T$ で、$x(t) = t/T$(等速で進む直線)となる。変分法では $F = \dot{x}^2/2$ のオイラー方程式 $\ddot{x} = 0$ から同じ結論が得られる。