リー代数

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リー括弧 $[\,,\,]: V \times V \to V$ を定義する前に、その満たすべき性質を述べる。

リー群の単位元における接ベクトル空間にリー括弧の構造を要請したものをリー代数という。

これら二つの性質から、リーの構造定数が満たすべき条件が導かれる。

$$\begin{aligned}f^{ab}{}_c &= -f^{ba}{}_c, \\ f^{ab}{}_d f^{dc}{}_g + f^{bc}{}_d f^{da}{}_g + f^{ca}{}_d f^{db}{}_g &= 0.\end{aligned}\tag{48}$$

最もよく知られた例として、$SU(2)$ のリー代数の構造定数は、前ページの式 (28) より $c^k_{ij} = \varepsilon_{ijk}$($\varepsilon_{123} = 1$)である。

定義 5.2 (部分代数と不変部分代数・イデアル) $U$ が $L$ の部分空間で $\forall x_1, x_2 \in U$ に対して $[x_1, x_2] \in U$ が成り立つとき、$U$ を $L$ の部分代数という。

さらに $\forall x \in U,\; \forall y \in L$ に対して $[x, y] \in U$ が成り立つとき、$U$ を $L$ の不変部分代数(イデアル)という。

定義 5.3 (直和) $\forall x_1 \in L_1,\; x_2 \in L_2$ に対して $[x_1, x_2] = 0$ が成り立つとき、$L$ をこれら二つのリー代数の直和といい

$$L = L_1 \oplus L_2$$

と書く。

定義 5.4 (単純リー代数・半単純リー代数) $L$ 自身と $\{0\}$ 以外に不変部分代数をもたない(可換でない)リー代数を単純リー代数という。 $\{0\}$ 以外にアーベル不変部分代数をもたないリー代数を半単純リー代数という。

単純リー代数は半単純であるが、逆は一般に成立しない。 半単純リー代数は不変部分代数を用いて一意に直和分解できる。

$$L = L_1 \oplus L_2 \oplus \cdots$$

定義 5.5 (同態と随伴表示) 写像 $f: L \to L'$ が $f([x,y]) = [f(x), f(y)]$ を満たすとき、$L$ と $L'$ は同態であるという。

リー代数の一つの重要な表示として、指数写像

$$\Gamma(g) \equiv \Gamma(e^x) \equiv e^{\Gamma(x)}\tag{49}$$

がある。これは量子場の理論でよく用いられる表示で、次の二性質をもつ。

  1. $\Gamma(ag_1 + bg_2) = a\Gamma(g_1) + b\Gamma(g_2)$。
  2. $\Gamma([g_1, g_2]) = [\Gamma(g_1), \Gamma(g_2)]$。

もう一つの重要な表示が随伴表示であり、構造定数で構成される。

$$(T^a)^b{}_c \equiv -if^{ab}{}_c.\tag{50}$$

Jacobi 恒等式を用いると、これが確かにリー代数の表示をなすこと($[T^a, T^b] = if^{ab}{}_c T^c$)が示される。

定義 5.6 (Killing 形式)

$$g_{ab} \equiv \mathrm{tr}\,(T^a T^b) = -f^{ac}{}_d f^{bd}{}_c.\tag{51}$$

定理 5.1 (Cartan の判定基準) リー代数が半単純である$\;\Longleftrightarrow\;$ $\det g_{ij} \neq 0$。

根ベクトルと Dynkin 図

$n$ 個の生成元 $X_a$ があるとき、互いに可換な生成元 $H_i$ を選び出して最大のアーベル部分代数(Cartan 部分代数)を構成する。その元の個数 $l$ をリー代数の階数という。残りの $n-l$ 個の生成元を $E$ と記す。

$H_i$ を同時に対角化し、$E$ が対角成分のみ $0$ となるよう再構成すると $H_i E \approx 0$ となる。 $H_i$ の対角化に際して随伴行列も対角化され、$(T^i)^a{}_b = -\beta^i(a)\delta^a_b$ と書ける。 このとき

$$[H_i,\, X_a] = if^{ia}{}_b X_b = \beta^i X_a\tag{52}$$

という固有方程式が得られ、$H_i$ が固有値 $\beta^i$ を与える。すべての $H_i$ を走らせると一つのベクトル

$$\vec{\beta} = (\beta^1,\, \beta^2,\, \ldots,\, \beta^l)$$

が定まる。これを根ベクトル(root vector)という。 $X_a$ を $E_\beta$ と書き直すことで生成元と根ベクトルを統一的に扱える。 なお、対角化後の生成元はエルミートでなくなるが $H_i$ はエルミートのままである。 数学的操作を経て

$$E_{-\beta} = E_\beta^\dagger\tag{53}$$

が示される。Jacobi 恒等式より

$$[H_i,\, [E_\alpha,\, E_\beta]] = (\alpha + \beta)^i [E_\alpha,\, E_\beta]\tag{54}$$

が成り立つから、$[E_\alpha,\, E_\beta]$ は $E_{\alpha+\beta}$ に比例し、

$$[E_\alpha,\, E_\beta] = N_{\alpha,\beta}\, E_{\alpha+\beta}.\tag{55}$$

係数は

$$N_{\alpha,\beta} = -N_{\beta,\alpha}, \qquad N^*_{\alpha,\beta} = N_{-\beta,-\alpha}\tag{56}$$

という関係をもつ。第 1 式は括弧の反対称性から、第 2 式は式 (55) のエルミート共役をとり式 (53) を用いると得られる。

$\beta = -\alpha$ の特殊な場合には $[E_\alpha,\, E_{-\alpha}]$ がすべての $H_i$ と可換となるから $H_i$ の線形結合で書け、

$$[E_\alpha,\, E_{-\alpha}] = \alpha^i H_i.\tag{57}$$

両辺に $H_j$ をかけてトレースをとる。左辺は式 (52) から $\mathrm{tr}\bigl([E_\alpha,\, E_{-\alpha}]H_j\bigr) = \mathrm{tr}\bigl(E_\alpha[E_{-\alpha},\, H_j]\bigr) = \alpha^j\,\mathrm{tr}\,E_\alpha E_{-\alpha}$、右辺は $\alpha^i g_{ij}$ である。 そこで $H_i$ を $g_{ij} = \delta_{ij}$ となるように、$E_{\pm\alpha}$ を

$$\mathrm{tr}\,E_\alpha E_{-\alpha} = 1\tag{58}$$

となるように規格化しておく。このとき内積を次で定義できる。

$$\langle \vec{\alpha},\, \vec{\beta} \rangle \equiv g_{ij} \alpha^i \beta^j.\tag{59}$$

$SU(2)$ を例にとると、三つの生成元 $J_1,\, J_2,\, J_3$ のうち階数 $l = 1$ の Cartan 部分代数は $H = J_3$ で、残りの二つは $J_\pm = J_1 \pm iJ_2$ に対応する。 $[J_3,\, J_\pm] = \pm J_\pm$ だから根ベクトルは $\beta = \pm 1$ の二つで、昇降演算子 $J_\pm$ が根に対応する。

根ベクトルの間の角度に関する制約を導くと、

$$\frac{2\langle\alpha,\beta\rangle}{\langle\alpha,\alpha\rangle} = n \in \mathbb{Z}, \qquad \frac{2\langle\alpha,\beta\rangle}{\langle\beta,\beta\rangle} = m \in \mathbb{Z},\tag{60}$$
$$\cos^2\theta_{\alpha,\beta} \equiv \frac{\langle\alpha,\beta\rangle^2}{\langle\alpha,\alpha\rangle\langle\beta,\beta\rangle} = \frac{mn}{4}.\tag{61}$$

式 (61) より $mn/4 \in \{0,\, 1/4,\, 2/4,\, 3/4,\, 1\}$ でなければならず、根ベクトル間の角度は特定の値($90^\circ$、$60^\circ/120^\circ$、$45^\circ/135^\circ$、$30^\circ/150^\circ$、または $0^\circ/180^\circ$)に限られる。

定義 5.7 (正根と単純根) 第一番目の非零成分が正であるベクトルを正根という。 単純根は基底と類似の概念で、他の正根をすべて正係数の線形結合で表せるような根の極大集合である。 単純根どうしの角度は必ず鈍角をなすことが示される。

Dynkin 図

Dynkin 図は単純根どうしの相対的な角度と長さの比を視覚化したものである。 単純根を節点(丸)で表し、根の間の角度が $120^\circ$ なら 1 本、$135^\circ$ なら 2 本、$150^\circ$ なら 3 本の辺を引く($90^\circ$ なら辺は引かない)。 長さの異なる根を区別するため、短い根を黒丸、長い根を白丸で表すことがある。

図9

代表的な古典リー群の Dynkin 図を以下に示す。

図10

図 5.1:代表的な古典リー群の Dynkin 図。上から $SU(\ell+1)$($A_\ell$ 型)、$SO(2\ell+1)$($B_\ell$ 型)、$SO(2\ell)$($D_\ell$ 型)。

Dynkin 図の構成に関する三つの規則を最後に述べる。

  1. Dynkin 図の中に閉路(ループ)を形成してはならない。
  2. 二つの節点の間の辺は最大 3 本までである。
  3. Dynkin 図は縮約できるが、縮約後の図も Dynkin 図でなければならない。
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