不等式は、最大値・最小値の問題や解析の基礎で繰り返し使われる。ここでは、凸関数と Jensen の不等式を土台に、相加・相乗平均の不等式、Hölder の不等式、Cauchy の不等式、Minkowski の不等式、並べ替えの不等式、Chebyshev の不等式、Bernoulli の不等式などを順に証明する。問題には、最後にまとめて解答をつけてある。
本節で考える関数は、すべて区間 $I$ から $\mathbb{R}$ への写像を指す。
補題1 $f$ を区間 $I$ 上の関数とする。もし任意の $x, y\in I$ に対して
が成り立つならば、任意の $x, y\in I$ および任意の有理数 $r\in(0,1)$ に対して、次が成り立つ。
証明. $x<y$ と仮定して一般性を失わない。$r$ は $(0,1)$ 内の有理数であるため、ある正の整数 $n, k$ が存在して $r=\frac{k}{n}$, $n\ge2$ かつ $k\in\{1,2,\dots,n-1\}$ と表せる。$d=\frac{y-x}{n}$ とおく。任意の $i\in\{0,1,\dots,n\}$ に対して、$u_i=x+id$ と記す。 $i\in\{1,2,\dots,n-1\}$ のとき、$f(u_i) = f\left(\frac{u_{i-1}+u_{i+1}}{2}\right) \le \frac{f(u_{i-1})+f(u_{i+1})}{2}$ より、
を得る。したがって、
となる。これより、
すなわち、
ゆえに、
さらに変形して $f(u_k) \le \left(1-\frac{k}{n}\right)f(u_0) + \frac{k}{n}f(u_n)$、すなわち $f((1-r)x+ry) \le (1-r)f(x)+rf(y)$ を得る。∎
系2 $f$ を区間 $I$ 上の関数とする。もし任意の $x, y\in I$ に対して $x\ne y$ でさえあれば
が成り立つならば、任意の $x, y\in I$ および任意の有理数 $r\in(0,1)$ に対して、$x\ne y$ であれば次が成り立つ。
定義1(凸関数) $f$ を区間 $I$ 上の関数とする。
定義2(関数の有界性) $f$ を $D$ 上の実数値関数とする。$E\subseteq D$ であり、$f(E)$ が有界集合であるとき、$f$ は $E$ 上で有界であるという。$f$ が $D$ 上で有界であるとき、$f$ を有界関数と呼ぶ。
定理3(三角不等式) $a, b\in\mathbb{R}$ ならば、
等号が成立するための必要十分条件は $ab\ge0$(すなわち $a, b$ が異符号でないこと)である。
証明. $|a+b|^2 = (a+b)^2 = a^2+b^2+2ab \le a^2+b^2+2|ab| = (|a|+|b|)^2$ より、不等式 $|a+b| \le |a|+|b|$ を得る。絶対値の定義より、等号成立の必要十分条件が $ab\ge0$ であることがわかる。∎
系4 $a, b\in\mathbb{R}$ ならば、
等号が成立するための必要十分条件は $ab\ge0$ である。
補題5 $f$ を区間 $I$ 上の関数とする。もし任意の $x, y\in I$ に対して
が成り立ち、かつ $f$ が $I$ のある部分区間上で有界であるならば、$f$ は $I$ の任意の閉部分区間上でも有界である。
証明. 任意の区間はある閉区間を含むため、$f$ はある $[a,b]\subseteq I$ 上で有界であると仮定してよい。したがって、ある $M>0$ が存在して、任意の $y\in[a,b]$ に対して $|f(y)|\le M$ となる。 (1) まず、「$c\in I, c<a$ ならば $f$ は $[c,b]$ 上で有界である」ことを示す。そのためには $f$ が $(c,a)$ 上で有界であることを示せば十分である。 任意の $u\in(c,a)$ に対して、ある正の整数 $n$ が存在して $n>\frac{u-c}{b-a}$、すなわち $\frac{u-c}{n}<b-a$ となる。したがってある正の整数 $k$ が存在して、$c+k\cdot\frac{u-c}{n}\in(a,b)$ となる。$c+k\cdot\frac{u-c}{n}>a$ より $k>\frac{a-c}{u-c}\cdot n > n$ である。 $y=c+k\cdot\frac{u-c}{n}$ とおくと、$u=(1-\frac{n}{k})c+\frac{n}{k}y$ となる。したがって
他方で、ある正の整数 $m>\frac{2(a-u)}{b-a}$ が存在し、すなわち $\frac{a-u}{m}<\frac{b-a}{2}$ となる。したがってある正の整数 $l$ が存在して、$u+l\cdot\frac{a-u}{m}\in(\frac{b+a}{2},b)$ となる。$u+l\cdot\frac{a-u}{m}>\frac{a+b}{2}$ より、$\frac{l}{m}>1+\frac{b-a}{2a-2u}\ge1+\frac{b-a}{2a-2c}$ である。 $z=u+l\cdot\frac{a-u}{m}$ とおくと、$a=(1-\frac{m}{l})u+\frac{m}{l}z$ である。ゆえに
したがって $f(u) \ge -M\cdot\frac{l+m}{l-m}$ となる。また、
であるため、$f(u) \ge -M\left(1+\frac{4(a-c)}{b-a}\right)$ である。以上より、$f$ は $(c,a)$ 上で有界であり、したがって $f$ は $[c,b]$ 上で有界である。 (2) 同様にして、$d\in I, d>b$ ならば $f$ は $[a,d]$ 上で有界であることが証明できる。 (3) $[c,d]\subseteq I$ のとき、$c_1=\min\{a,c\}, d_1=\max\{b,d\}$ ととる。 (1)より $f$ は $[c_1,b]$ 上で有界であり、(2)より $f$ は $[a,d_1]$ 上で有界であるため、$f$ は $[c_1,d_1]$ 上で有界となる。最後に $[c,d]\subseteq [c_1,d_1]$ であることから、$f$ は $[c,d]$ 上で有界であることがわかる。∎
補題6 $f$ を区間 $I$ 上の関数とし、$f$ は $I$ のある部分区間上で有界であるとする。もし任意の $x, y\in I$ に対して
が成り立つならば、$f$ は凸関数である。もし任意の $x, y\in I$ に対して $x\ne y$ である限り
が成り立つならば、$f$ は狭義凸関数である。
証明. まず1つの事実を述べる。もし実数 $a, b$ が「任意の $\epsilon>0$ に対して $a\le b+\epsilon$」を満たすならば、$a\le b$ である。 $x, y\in I$, $x<y$, $\alpha\in(0,1)$ とする。 $z=(1-\alpha)x+\alpha y$ とおくと、$f(z)\le (1-\alpha)f(x)+\alpha f(y)$ を証明すればよい。 $f$ は $[x,y]$ 上で有界であるため、ある $M>0$ が存在して、任意の $w\in[x,y]$ に対して $|f(w)|\le M$ となる。 任意の $\epsilon>0$ を与える。正の整数 $n$ を $n > \frac{4M+2\epsilon}{(1-\alpha)\epsilon} + \frac{2(y-x)}{y-z} + \frac{2(y-x)}{z-x}$ となるようにとる。$\alpha\notin\mathbb{Q}$ と仮定する。 任意の $i\in\{0,1,2,\dots,n\}$ に対し、$x_i = x+\frac{i}{n}(y-x)$ とおくと、ある正の整数 $k$ が存在して $z\in(x_{k-1}, x_k)$ となる。 $0 < z-x_{k-1} < \frac{y-x}{n}$ であるため、ある正の整数 $j$ が存在して $x_{k-1}+j(z-x_{k-1})\in(x_{n-1}, x_n)$ となる。 $w = x_{k-1}+j(z-x_{k-1})$ とおくと、$z = \left(1-\frac{1}{j}\right)x_{k-1} + \frac{1}{j}w$ であるから、
また、
よって、$f(z) \le f(x_{k-1}) + \frac{2M}{j} \le (1-\alpha)f(x)+\alpha f(y) + \frac{2M}{n} + \frac{2M}{j}$ となる。 $n$ の定義より $\frac{2M}{n} < \frac{2M(1-\alpha)\epsilon}{4M+2\epsilon} < \frac{\epsilon}{2}$ である。一方で、
ゆえに $j \ge n(1-\alpha)-1 \ge \frac{4M+2\epsilon}{(1-\alpha)\epsilon}(1-\alpha)-1 > \frac{4M}{\epsilon}$。したがって $\frac{2M}{j} < \frac{\epsilon}{2}$ である。 これにより、任意の $\epsilon>0$ に対して $f(z)\le (1-\alpha)f(x)+\alpha f(y)+\epsilon$ となることが証明された。 したがって $f(z) \le (1-\alpha)f(x)+\alpha f(y)$ である。
次に狭義凸性の部分を証明する。$u=\frac{x+y}{2}$ とおくと、$f(u) < \frac{1}{2}(f(x)+f(y))$ である。 $t\in\left(0,\frac{1}{2}\right)$ のとき、$(1-t)x+ty = (1-2t)x+(2t)u$ である。ゆえに
$t\in\left(\frac{1}{2},1\right)$ のとき、$(1-t)x+ty = 2(1-t)u+(1-2(1-t))y$ である。ゆえに
∎
定理7(Jensen の不等式) $f$ が区間 $I$ 上の凸関数であるとき、任意の $x_1, x_2, \dots, x_n\in I$ および任意の $t_1, t_2, \dots, t_n\in(0,1)$ に対して、$t_1+t_2+\dots+t_n=1$ であれば、次が成り立つ。
$f$ がさらに狭義凸である場合、上記不等式の両辺が等しくなるための必要十分条件は $x_1 = x_2 = \dots = x_n$ である。
証明. $n=1, n=2$ のとき、不等式は明らかに成り立つ。ある $n \ (n\ge2)$ に対して不等式が成り立つと仮定する。 $x_1, \dots, x_{n+1} \in I$、$t_1, \dots, t_{n+1}\in(0,1)$ かつ $\sum_{k=1}^{n+1}t_k=1$ とする。このとき
数学的帰納法により、不等式はすべての正の整数 $n$ について成り立つ。次に $f$ が狭義凸関数である場合を考える。 $f(t_1 x_1 + \dots + t_n x_n) = t_1 f(x_1) + \dots + t_n f(x_n)$ ならば $x_1 = \dots = x_n$ となることを示せばよい。 実際、狭義凸関数の定義より $f(t_1 x_1+t_2 x_2) = t_1 f(x_1)+t_2 f(x_2)$ ならば $x_1=x_2$ である。 $n>2$ のとき、$f(t_1 x_1+\dots+t_n x_n) = t_1 f(x_1)+\dots+t_n f(x_n)$ であれば、先の証明過程より $x_n = \sum_{k=1}^{n-1}\frac{t_k}{1-t_n}x_k$、すなわち $x_n = \sum_{k=1}^{n}t_k x_k$ が必然的に成り立つ。 同様にして $x_1 = \sum_{k=1}^{n}t_k x_k, \dots, x_{n-1} = \sum_{k=1}^{n}t_k x_k$ も得られる。したがって $x_1 = x_2 = \dots = x_n$ である。∎
系8 $f$ が区間 $I$ 上の凸関数であるならば、任意の $x_1, x_2, \dots, x_n\in I$ に対して、次が成り立つ。
補題1 $f(x) = -\ln x$ とする。このとき $f(x)$ は狭義凸関数である。
証明. 任意の $x\in[1,2]$ に対して $0 \le \ln x \le \ln 2$ であるため、$[1,2]$ 上で有界である。 任意の $x_1, x_2\in\mathbb{R}^+$ に対し、$x_1 \ne x_2$ であれば $x_1+x_2 = (\sqrt{x_1}-\sqrt{x_2})^2 + 2\sqrt{x_1 x_2} > 2\sqrt{x_1 x_2}$ となるため、
したがって
∎
定理2(重み付き相加相乗平均の不等式) $t_1, t_2, \dots, t_n$ を正の数とし、$t_1+t_2+\dots+t_n=1$ とする。このとき任意の正の数 $a_1, a_2, \dots, a_n$ に対して次が成り立つ。
不等式の等号が成立するための必要十分条件は $a_1=a_2=\dots=a_n$ である。
証明. $-\ln$ は狭義凸関数であるため、Jensen の不等式より
∎
定理3 $p_1, p_2, \dots, p_m$ は正の数であり、$\frac{1}{p_1}+\frac{1}{p_2}+\dots+\frac{1}{p_m}=1$ を満たすとする。
がすべて正の数であるとき、次が成り立つ。
等号が成立するための必要十分条件は、各 $j\in\{1,2,\dots,n\}$ に対して
となることである。
証明. $A_i = \sum_{j=1}^{n}a_{ij}$、$A = \prod_{i=1}^{m}A_i^{\frac{1}{p_i}}$ とおく。重み付き相加相乗平均の不等式より、各 $j\in\{1,2,\dots,n\}$ に対して
さらに $j=1$ から $n$ まで足し合わせると、
∎
注1. 定理3において $p_1=p_2=\dots=p_m=m$ とすると、(Carlson の不等式)
を得る。
注2. 定理3における各 $a_{ij}$ を ${a_{ij}}^{p_i}$ に置き換えると、
となる。
注3. $u_1, u_2, \dots, u_m$ を正の数とする。$\frac{u_1+u_2+\dots+u_m}{u_i}$ を定理3の $p_i$ と見なすと、
問題 上記の3つの「注」における各不等式の等号成立条件は何か?
定理4(Hölder の不等式) $p, q\in\mathbb{R}^+, \frac{1}{p}+\frac{1}{q}=1$ とし、$a_1, a_2, \dots, a_n$ および $b_1, b_2, \dots, b_n$ をすべて非負の実数とすると、次が成り立つ。
不等式の両辺が等しくなるための必要十分条件は、$a_1, a_2, \dots, a_n$ がすべてゼロであるか、$b_1, b_2, \dots, b_n$ がすべてゼロであるか、あるいは各 $k\in\{1,2,\dots,n\}$ に対して
が成り立つことである。∎
注. $u, v$ が正の数であるとき、$\left(\sum_{k=1}^{n}a_k\right)^u \left(\sum_{k=1}^{n}b_k\right)^v \ge \left(\sum_{k=1}^{n} a_k^{\frac{u}{u+v}} b_k^{\frac{v}{u+v}}\right)^{u+v}$。
問題 $0<p<1$ かつ $\frac{1}{p}+\frac{1}{q}=1$ であるとき、正の数 $a_1, a_2, \dots, a_n$ および $b_1, b_2, \dots, b_n$ に対して常に
は成り立つか?
定理5(Cauchy の不等式) $a_1, a_2, \dots, a_n$ および $b_1, b_2, \dots, b_n$ を実数とすると、次が成り立つ。
等号が成立するための必要十分条件は、すべてがゼロではない実数 $\lambda, \mu$ が存在して、各 $k\in\{1,2,\dots,n\}$ に対して $\lambda a_k = \mu b_k$ となることである。
問題 もし Cauchy の不等式の条件における「実数」を「非負の実数」または「正の実数」に変更した場合、この定理はより弱くなるだろうか?
定理6(重み付き累乗和の不等式 / Radonの不等式) $m$ を正の数とする。$a_1, a_2, \dots, a_n$ がすべて非負の実数であり、$b_1, b_2, \dots, b_n$ がすべて正の数であるとき、次が成り立つ。
等号が成立するための必要十分条件は、ある $\lambda$ が存在して各 $k\in\{1,2,\dots,n\}$ に対して $a_k = \lambda b_k$ となることである。
証明. Hölder の不等式(先の注)より、
∎
定理7(一般化された重み付き累乗和の不等式) $m, r$ を正の数とし、$r\ge1$ とする。$a_1, a_2, \dots, a_n$ がすべて非負の実数であり、$b_1, b_2, \dots, b_n$ がすべて正の数であるとき、次が成り立つ。
証明. $r=1$ のときは Hölder の不等式に他ならず議論を要しない。$r>1$ のとき、
∎
定理8(重み付きべき乗平均の不等式) $t_1, t_2, \dots, t_n$ を正の数とし、$t_1+t_2+\dots+t_n=1$ とする。$rs\ne0$ かつ $r<s$ であるとき、任意の正の数 $a_1, a_2, \dots, a_n$ に対して次が成り立つ。
等号は $a_1=a_2=\dots=a_n$ のときに限り成立する。
証明. (1) $0<r<s$ のとき、Hölder の不等式より
(2) $r<s<0$ のとき、$0<-s<-r$ であるため、(1)の結論を $\frac{1}{a_1}, \frac{1}{a_2}, \dots, \frac{1}{a_n}$ に適用すると、
(3) $r<0<s$ のとき、$-r>0$ である。Hölder の不等式より
∎
系9 $a>0$ とし、$f:\mathbb{R}^+\to\mathbb{R}$ を $f(x)=x^a$ と定義する。
系10(べき乗平均の不等式) $a_1, a_2, \dots, a_n$ を正の数とする。$rs\ne0$ かつ $r<s$ であるとき、
注. $M_p := \left(\frac{a_1^p+a_2^p+\dots+a_n^p}{n}\right)^{\frac{1}{p}}$ を $a_1, \dots, a_n$ の $p$-次平均($p$-べき乗平均)と呼ぶ。
定理11(平均の不等式) $a_1, a_2, \dots, a_n$ を正の数とすると、次が成り立つ。
各不等号で等号が成立するための必要十分条件は $a_1=a_2=\dots=a_n$ である。
証明. (1) $G=\left(\prod_{k=1}^{n}a_k\right)^{\frac{1}{n}}$、$A=\frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}a_k$ とおくと、重み付き相加相乗平均の不等式より $G\le A$。 (2) $H=n\left(\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{a_k}\right)^{-1}$ とおく。(1)の結論より
ゆえに $H\le G$。 (3) $Q=\left(\frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}{a_k}^2\right)^{\frac{1}{2}}$ とおくと、べき乗平均の不等式より $A\le Q$。∎
注. 平均の不等式における4つの式 $H, G, A, Q$ は、それぞれ $a_1, a_2, \dots, a_n$ の調和平均、幾何平均、算術平均、二乗平均と呼ばれる。真ん中の不等式が最もよく知られており、AM-GM不等式とも呼ばれる。
問題 上記の記号を用いると、平均の不等式は $H \le G \le A \le Q$ と簡記できる。また $H, A, Q$ はそれぞれ $p=-1, 1, 2$ のときの $p$-次平均 $M_{-1}, M_1, M_2$ とみなすことができる。では、$G$ もある $p$ の値における $p$-次平均と見なすことはできるだろうか?その場合、$p$ はいくつになるか?
定理1(Minkowski の不等式) $p\ge1$ であるとき、任意の $a_1, a_2, \dots, a_n$ および $b_1, b_2, \dots, b_n$ に対して次が成り立つ。
証明. $p=1$ のとき、三角不等式より結論は明らかに成り立つ。以下、$p>1$ と仮定する。 $A = \left(\sum_{k=1}^{n}|a_k|^p\right)^{\frac{1}{p}}$, $B = \left(\sum_{k=1}^{n}|b_k|^p\right)^{\frac{1}{p}}$, $C = \left(\sum_{k=1}^{n}|a_k+b_k|^p\right)^{\frac{1}{p}}$ とおく。このとき
したがって $C \le A+B$ である。∎
注1. $x=(x_1, x_2, \dots, x_n)$ に対し、
を $x$ の $p$-ノルムと呼ぶ。さらに
と記せば、Minkowski の不等式は次のように簡記できる。
それゆえに、Minkowski の不等式は三角不等式とも呼ばれる。
問題 $0<p<1$ とする。任意の正の数 $a_1, a_2, \dots, a_n$ および $b_1, b_2, \dots, b_n$ に対して常に
は成り立つか?
性質2 $0\le r<s$ であるとき、任意の $a=(a_1, a_2, \dots, a_n)$ に対して次が成り立つ。
定理3(Abel の変形、Abel の恒等式) $a_1, a_2, \dots, a_n$ および $b_1, b_2, \dots, b_n$ を実数とする。任意の $k\in\{1,2,\dots,n\}$ に対して $B_k=\sum_{i=1}^{k}b_i$ とおくとき、次が成り立つ。
証明. 任意の $k\in\{2,\dots,n\}$ に対して $b_k = B_k-B_{k-1}$ であるため、
∎
補題4 $b_1 \le b_2 \le \dots \le b_n$ であり、$(i_1, i_2, \dots, i_n)$ が $\{1,2,\dots,n\}$ の一つの順列であるとき、任意の $k\in\{1,2,\dots,n\}$ に対して次が成り立つ。
補題5 $b_1 \le b_2 \le \dots \le b_n$ とする。このとき、ある $k<n$ が存在して $\sum_{j=1}^{k}b_j = \sum_{j=1}^{k}b_{n-j+1}$ となるための必要十分条件は $b_1=b_2=\dots=b_n$ である。
定理6(並べ替えの不等式) $n$ を1より大きい整数とし、$a_1 \le a_2 \le \dots \le a_n$、$b_1 \le b_2 \le \dots \le b_n$ とする。$(i_1, i_2, \dots, i_n)$ を $\{1,2,\dots,n\}$ の一つの順列とすると、次が成り立つ。
また、$\sum_{k=1}^{n}a_k b_{n-k+1} = \sum_{k=1}^{n}a_k b_k$ となるための必要十分条件は、$a_1=a_2=\dots=a_n$ または $b_1=b_2=\dots=b_n$ である。
証明. $c_k = b_{i_k}$、$S_1 = \sum_{k=1}^{n}a_k b_{n-k+1}$、$S_2 = \sum_{k=1}^{n}a_k c_k$ とおき、さらに $B_k = \sum_{i=1}^{k}(b_{n-i+1}-c_i)$ とおく。このとき $B_n = 0$ であり、また補題4より $B_k = \sum_{i=1}^{k}(b_{n-i+1}-c_i) \ge 0$ である。したがって
次に $S_3 = \sum_{k=1}^{n}a_k b_k$、$D_k = \sum_{i=1}^{k}(c_i-b_i)$ とおくと、
$a_1=a_2=\dots=a_n$ または $b_1=b_2=\dots=b_n$ のとき、明らかに $\sum_{k=1}^{n}a_k b_{n-k+1} = \sum_{k=1}^{n}a_k b_k$ である。 逆に、$\sum_{k=1}^{n}a_k b_{n-k+1} = \sum_{k=1}^{n}a_k b_k$ が成り立ち、かつ $a_1=a_2=\dots=a_n$ が成り立たないとすると、ある $k<n$ が存在して $a_{k+1}-a_k \ne 0$ となる。したがって $B_k = D_k = 0$、すなわち $\sum_{i=1}^{k}(b_{n-i+1}-c_i) = \sum_{i=1}^{k}(b_i-c_i) = 0$ となる。ゆえに
ここで補題5を用いると、$b_1=b_2=\dots=b_n$ が得られる。∎
定理7(Chebyshev の不等式) $a_1 \le a_2 \le \dots \le a_n$、$b_1 \le b_2 \le \dots \le b_n$ であるとき、次が成り立つ。
証明. $A = \sum_{k=1}^{n}a_k b_{n-k+1}, B = \sum_{k=1}^{n}a_k b_k$ とおく。並べ替えの不等式より
これらすべての式を足し合わせると、
となる。∎
問題 Chebyshev の不等式において、最初の不等号が等号になるための必要十分条件は何か?
定理8(一般化された Bernoulli の不等式) 正の整数 $n\ge2$ とし、実数 $a_1, a_2, \dots, a_n$ がすべて $-1$ より大きく、かつこれらが同じ符号を持つとき、次が成り立つ。
証明. $b_k = 1+a_k$ とおくと、証明すべき不等式は $(n-1) + b_1 b_2 \dots b_n > b_1 + b_2 + \dots + b_n$ となる。 $b_k>0$ であり、かつ $b_1, b_2, \dots, b_n$ はすべて同時に $1$ より大きいか、または同時に $1$ より小さい。したがって並べ替えの不等式より
上式を $k=2$ から $n$ まで足し合わせると、ただちに $(n-1) + b_1 b_2 \dots b_n > b_1 + b_2 + \dots + b_n$ を得る。∎
定理9(Bernoulli の不等式) 正の整数 $n\ge2$ とし、実数 $x>-1$ かつ $x\ne0$ であるとき、次が成り立つ。
定理10(Jordan の不等式) $0<x<\frac{\pi}{2}$ であるとき、次が成り立つ。
定理 8 で $a_1 = \cdots = a_n = x$($x > -1$、$x \neq 0$、すべて同符号)とおくと $(1+x)^n > 1 + nx$ を得る。
$f(x) = x - \sin x$ とおくと $f(0) = 0$、$f'(x) = 1 - \cos x > 0$($0 < x < \pi/2$)だから $f$ は増加し、$x > \sin x$。次に、$\sin x$ は $[0, \pi]$ で狭義に凹($(\sin x)'' = -\sin x < 0$)である。点 $(0, 0)$ と $(\pi/2, 1)$ を結ぶ弦は $y = \dfrac{2}{\pi}x$ で、狭義凹関数のグラフは弦より上にあるから、$0 < x < \pi/2$ で $\sin x > \dfrac{2}{\pi}x$。
Hölder の不等式の注 1〜3 の等号条件。 注 1(Carlson):各行ベクトル $(a_{i1}, \ldots, a_{in})$ が互いに比例するとき、すなわち各 $j$ について $\dfrac{a_{ij}}{\sum_j a_{ij}}$ が $i$ によらないときに限り等号が成立する。注 2:置き換えた $a_{ij}^{p_i}$ について同じ条件、すなわち各 $j$ で $\dfrac{a_{ij}^{p_i}}{\sum_j a_{ij}^{p_i}}$ が $i$ によらないとき。注 3:定理 3 の $p_i = (u_1+\cdots+u_m)/u_i$ について同じ条件、すなわち各行ベクトルが比例するとき。いずれも定理 3 の証明で重み付き相加相乗平均の不等式の等号条件を使うので、「各 $j$ について $a_{1j}/A_1 = \cdots = a_{mj}/A_m$」が必要十分条件になる。
$0 < p < 1$ のときの逆向きの Hölder の不等式($q = p/(p-1) < 0$)。 成り立つ。$P = 1/p > 1$ の共役指数は $P' = 1/(1-p)$ で、$-pP' = q$ である。Hölder の不等式を $\sum a_k^p = \sum (a_kb_k)^p\cdot b_k^{-p}$ に適用して
両辺を $1/p$ 乗し、$(1-p)/p = -1/q$ に注意すると $\Bigl(\sum a_k^p\Bigr)^{1/p}\Bigl(\sum b_k^q\Bigr)^{1/q} \le \sum a_kb_k$ を得る。
Cauchy の不等式で「実数」を「非負(正)の実数」に変えると弱くなるか。 弱くならない。一般の実数 $a_k, b_k$ に対して、非負の場合の不等式を $|a_k|, |b_k|$ に適用すると $(\sum a_kb_k)^2 \le (\sum|a_kb_k|)^2 \le \sum a_k^2\sum b_k^2$ となり、一般の場合が従う。正の実数の場合も、$0$ になる項を小さな正数に置き換えて極限をとれば同じである。ただし等号条件の言い方は、非負・正の場合のほうが単純になる。
$G$ は $p$-次平均か。 $p \to 0$ の極限が幾何平均である。$M_p = \exp\Bigl(\dfrac{1}{p}\ln\dfrac{\sum a_k^p}{n}\Bigr)$ で、$p \to 0$ のとき $\dfrac{\sum a_k^p}{n} = 1 + p\cdot\dfrac{\sum\ln a_k}{n} + o(p)$ だから $M_p \to \exp\Bigl(\dfrac{1}{n}\sum\ln a_k\Bigr) = G$。したがって $G = M_0$($p = 0$)と定義すれば $H = M_{-1} \le G = M_0 \le A = M_1 \le Q = M_2$ とそろう。
$0 < p < 1$ のときの Minkowski の不等式の向き。 逆向きの不等式が成り立つ。$C^p = \sum a_k(a_k+b_k)^{p-1} + \sum b_k(a_k+b_k)^{p-1}$ に、上の逆向き Hölder(指数 $p$ と $q = p/(p-1)$、$(p-1)q = p$)を使うと、$\sum a_k(a_k+b_k)^{p-1} \ge A\,C^{p-1}$、同様に $\sum b_k(a_k+b_k)^{p-1} \ge B\,C^{p-1}$($A = (\sum a_k^p)^{1/p}$ など)。よって $C^p \ge (A+B)C^{p-1}$、すなわち $C \ge A + B$。
Chebyshev の不等式の最初の等号。 $\sum a_kb_{n-k+1} = \dfrac{1}{n}\sum a_k\sum b_k$ となるのは、$a_1 = \cdots = a_n$ または $b_1 = \cdots = b_n$ のときに限る。証明の中の $n$ 個の式がすべて $A$ 以上で、足すと $nA$ 以下になるので、等号なら各式が $A$ に等しく、特に $A = B$ である。並べ替えの不等式(定理 6)の等号条件から、$a_k$ がすべて等しいか $b_k$ がすべて等しい。逆は明らかである。